建築設計や床材のメンテナンスを専門とする立場から見ると、フローリングの上に畳を直接敷くという手法は、建物の健康維持という観点で非常にリスクの高い行為であると断言せざるを得ません。多くの消費者が「手軽な模様替え」として捉えていますが、工学的な視点では「下地の呼吸困難」を引き起こしている状態と言えます。フローリング、特に合板フローリングは、接着剤を使用して複数の層を重ねて作られていますが、この接着剤や木材自体が、密閉された湿気に非常に弱いのです。畳という厚みがあり吸湿性の高い素材をフローリングに密着させると、夜間に発生する結露や生活湿気が、畳とフローリングの間のわずかな隙間に閉じ込められます。逃げ場を失った水分は、重力に従ってフローリングの表面から木材の内部へと浸透し、合板の接着層を徐々に破壊します。これが、フローリングがブカブカと浮いてきたり、歩くたびに異音がしたりする原因となります。また、日光の影響も深刻なデメリットを招きます。住宅の窓から差し込む紫外線は、フローリングの色を少しずつ褪せさせますが、一部にだけ畳を敷いていると、その部分だけが新築時の色を保ち、周囲が白っぽく変色するというコントラストが生まれます。これを修復するには、フローリングの表面を削って再塗装するか、全面を張り替えるしかありません。さらに、荷重による物理的な損傷も無視できません。畳は一点に荷重がかかると、その下のフローリングにも均等ではない圧力がかかり続けます。畳の裏面の滑り止めパターンが、数年かけて床のコーティングを削り取り、幾何学的な模様のような傷を刻んでしまうこともあります。防虫面でのリスクも忘れてはなりません。フローリングは本来、害虫の隠れ場所が少ないクリーンな床材ですが、その上に畳を置くことで、ダニやチャタテムシにとって絶好の隠れ家と移動経路を提供することになります。畳の繊維は埃をキャッチしやすく、それが湿気を含めば、害虫の繁殖サイクルを止めることは困難です。和の要素を取り入れたいという意図は理解できますが、フローリングという高度に工業化された床材の特性を無視した置き畳の導入は、結果として資産価値を下げる行為になりかねません。もし導入するならば、せめて通気性の良い専用のベースユニットを噛ませるか、吸放湿性能のない樹脂製の畳を選ぶといった、科学的なアプローチによるリスク軽減が最低条件となります。
プロが指摘するフローリングの上に畳を敷く際の下地の劣化